医療現場における患者・家族の意思決定支援について

私はとある地方の病院で働く看護師です。

以前、私が勤務する病棟にAさんという高齢男性が入院された時のことです。Aさんは普段は人工透析を受けながら自宅で一人暮らしをされていました。今回の入院の約半年前に右足首から先の切断術を受けましたが、切断した部分の傷がなかなか治らずに感染症を引き起こし、さらに左足にも壊死が及んでいました。耐え難い痛みに苛まれるAさんでしたが、当院に入院された時点でかなり腎臓の機能も悪くなっており、使用できる痛み止めが限られていました。この状況を改善するためには両下肢の切断が必要ですが、全身状態が予断を許しません。

そこで、主治医から提案された選択肢は①何とか痛みに耐えながら手術に耐えうる状況になるまで待つ。②死期を早めてしまう可能性を許容し、医療用麻薬による除痛を行う。この2択でした。

すぐに答えを出すことは難しく、医療者は全員席を外してAさんとご家族だけで話し合って頂く時間を設けました。

Aさんは「とにかくこの痛みを取って欲しい。死期が早まったとしても仕方ない。こんな病気になったこと自体仕方がない。」と自身の意思をご家族・医療者に伝えて下さいました。対してご家族はAさんの意思を聞いて涙されながらも、「本人が望む事なら受け入れます。」と返答されました。自身の死期がそう遠くない未来に迫っていることを告げられたAさんは、もちろん死を覚悟の上で医療用麻薬による除痛を希望されていました。しかし、話し合いの中でAさんは、「ワシだって生きられるものなら生きていたい。孫だってこれから大きくなるんやし、孫の成長を見ていきたい。」と思いを話して下さいました。

その後他部門と検討を行い再度Aさん、ご家族と話し合いを重ねた結果、医療用麻薬を使う前に両下肢の切断術に踏み切りました。術後全身状態も落ち着き、無事に一般病棟へ転出され、Aさんはリハビリに精を出しているとのことです。

私達医療者は、患者さんの現状についてとメリット・デメリットどちらも考慮した上で説明にあたりますが、どうしても厳しい現実に主軸を置いた選択肢を提案する場面が多いと感じています。 しかし、誰しも大切な家族や本人が大事にしている事があり、Aさんのように一度決めた意思が変わることは珍しい事ではありません。

患者さんの人生における重要な意思決定の場面で、その時その時の患者さん・ご家族の意思を尊重し、何が患者さんにとっての最善になるかを常に考え、柔軟な姿勢で関わることが重要であると感じました。

Aさんとの関わりを得られたことに感謝しつつ、今回感じたことや学んだことを今後のケアに活かして行きたいと思います。